とにかく、せっかく水島上等兵が出て来たのにいまいち感動できずに終わってしまった、みたいなこの消化不良な感じをどうにかすべく、本作に対する自分なりの解釈を、鑑賞後に頭の中で色々捏ねくり回してみた。多分、幼い頃から高い技術を持ち、少し高慢な性格で、自分がヴァイオリンの天才である事にもプロの音楽家になる事にも少しも疑いを持たずにいたデイヴィッドが、何もかも捨ててでも心身を捧げたいと初めて思った音楽の道、それが「鎮魂」だったのだと思う。死者たちの名だけを刻んだ、楽譜に起こされる事もなければユダヤ人以外が知る事すらない歌「The Song of Names」(本作の原題でもある)と、一人の至上の演奏家との悲しき出会い、それがこの物語の本質だったのではないかと思う。私としては、そんなデイヴィッドの心情をもっと深く得心しながら、マーティンとデイヴィッドの友情に別れを告げられなかった事が、ただただ惜しまれる次第である。