まったく異様な一家であるが、これは言ってみれば、家族が自分から離れて行くのを極端に怖がっている父親の「恐怖」の物語なのだと思う。一般的な家庭のように、年頃になった子供たちが自分を嫌ったり疎んじたりするのが彼には我慢できず、耐えられないに違いない。それを阻止するためにあれこれ洗脳してきたわけだが、わたしはこの父親の恐怖心を、彼と電化製品との繋がりに見て取る事ができる。独自の言葉を生み出したり、はたまた特定の言葉を禁じたりというのはまさにカルトの常套手段で、それによって教祖は信者の思想をコントロールしたがるわけだけれども、この家ではカセットテープレコーダーを使って、独特の(先述の「海」とか「高速道路」とか)言語教育が施されている。また、一家の結束を強める手段としてホームビデオも度々撮影され、その上映会が行われている。父親と母親はセックスの際、ウォークマンか何かでどちらも音楽を聴きながら臨む。きっと好きな音楽を聴いて気分を高めでもしなければ、良いセックスをする自信がないのだろう。或いは、レコード。父親はレコードプレイヤーでフランク・シナトラの「Fly me to the moon」をかける事があるようだが、誰も英語がわからないのを良い事に、家族に忠誠を誓う歌だという嘘を信じ込ませ、デタラメな翻訳をして聞かせている。そして娘やクリスティーナに暴力をふるうシーンでは、ビデオテープやVHSデッキを使って折檻している。彼の恐怖心をなだめ、その解決策を講じる手段として電化製品は欠かせない存在なのだ。