人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『テスラ エジソンが恐れた天才』


『テスラ エジソンが恐れた天才』_f0324790_11361392.jpg


2020年 USA
2.8 /5点満点

19世紀後半、電力事業黎明期のアメリカ。オーストリア帝国出身の電気技師ニコラ・テスラは、トーマス・エジソンの会社に入社して働くも、エジソンの約束の不履行などから不和となり職を辞す。その後同じく著名な実業家ジョージ・ウェスティングハウスの会社に入り、自らの提案した電気の送電方式「交流送電」が市場で成功を収めるなど、技師としても発明家としても活躍を見せるテスラ。しかし彼の人生は、決して順風満帆なものではなかった。

ニコラ・テスラに、『マグニフィセント・セブン』『ガタカ』『その土曜日、7時58分』『バレー・オブ・バイオレンス』『ビリー・ザ・キッド 孤高のアウトロー』『ストックホルム・ケース』のイーサン・ホーク。
アン・モルガンに、イヴ・ヒューソン。
J・P・モルガンに、『靴職人と魔法のミシン』『アド・アストラ』、ドラマ『Forever Dr.モーガンのNY事件簿』『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』のドニー・ケシャウォーズ。


『テスラ エジソンが恐れた天才』_f0324790_11524457.jpg


『テスラ エジソンが恐れた天才』_f0324790_11525471.jpg


『テスラ エジソンが恐れた天才』_f0324790_11530140.jpg


『テスラ エジソンが恐れた天才』_f0324790_11530930.png


『テスラ エジソンが恐れた天才』_f0324790_11531717.png



科学者として今も天才の呼び声高いニコラ・テスラの伝記映画。主演のイーサン・ホークは割合好きな俳優なので、けっこう楽しみにしていたのだが、残念ながら色々とダメな映画だった。

ダメポイント①:どうしてそんなに暗いの?
本作は全体的な調子がすこぶる暗い。テスラは笑わないし、いつも深刻そうな顔をしているし、常に低い声で抑揚も少なにボソボソ喋るし、楽しいシーン、華やかなシーンといったものも一切無い。そりゃあ、彼の人生は苦労も多かったと聞くし、最後は孤独死だったとも聞いている。でも失意ばかりの人生でもなかったはずで、一定の成功と一定の名声は得ていたはずだ。なのに、どうしてこんなに暗い映画にしたのだろう。シリアスな作品はむしろわたしの好むところだが、この暗さは不必要なものに思えてならない。

ダメポイント②:何がしたくてこの映画を作ったの?
ハイライトシーンというものが、この作品には無いんである。ただテスラの人生の一時期を黙々と追っただけ。成功も失敗も同じトーンで扱われ、物語の起伏が平坦なのだ。どの時代のどんな彼を見せたくて作品を作ったのかが、わたしにはまるで見えてこなかった。

ダメポイント③:なんでそんな事したの?
本作では、かなり挑戦的な演出がいくつも施されている。制作側もある程度のリスクは承知だったと思うし、それでも挑戦に踏み切ったのには彼らなりの自信があったのだろうが、しかしわたしにはそうした演出が成功裏に終わったようには見受けられなかった。例えば、語り手。作中でテスラに思いを寄せる女性・アンが、何故か現代のセットからパソコンを前にして語り手としても登場するんである。え、なんで? この人19世紀の人じゃなかったの? という素朴な疑問が、最後まで筋の通った説明を受け取る事はなかった。それから、スクリーンに大写しになった写真を背景に持ってくるシーン。二次元のスクリーンをバックに役者が演技をするというのはアイディアとしては面白いが、やはり必要性というか、わざわざそうした意味が感じられなかった。そして極めつけはテスラが歌を歌うシーン。彼はなぜか、1980年代に発表された歌を、シンセサイザーとエレキギターの演奏と共に歌いだすんである。いやいやいやいや。1943年に死んだテスラが、どうやったら1980年代の歌を歌えるのだ。こういう突飛な演出は、もしかしたら舞台のお芝居では上手くいったかもしれない。ただし映画の文法においては、これはどうにも「不可」に思えてしまう。

ダメポイント番外:邦題のサブタイトル
これは日本の配給会社のせいであって、作品そのものには関係がないけれど。エジソンがテスラの才能を見くびり、彼を無下に扱ったというのは有名な話だし、本作の中でもエジソンはテスラに対して堂々と約束を破る。直流方式のものを交流方式で稼働させてみせれば褒賞を出す、と言っておきながら、それに成功したテスラにエジソンは「アメリカンジョークが通じないんだな」とのたまって終わらせたのである。少なくともテスラにとっては、エジソンは愚かで憎らしい相手だろう。なのにそんな彼の伝記映画のタイトルに邦題は「エジソン」の名を冠した、「あのエジソンも恐れた天才です」と言わんばかりに。エジソンの名を引き合いに出す事でテスラを褒めてみせる……これはテスラに失礼というものではないだろうか?

では本作で良かった点はどこかというと、それは一にも二にもアン・モルガンを演じたイヴ・ヒューソンの存在だ。彼女の知性的な眼差し、聡明そうな眉、落ち着いた物腰、温かみのある声音、それらの魅力が時に危なっかしい主人公をしかと支えていた。ヒューソンさんはロックバンドU2のヴォーカル、ボノのお嬢さんだそうだが、これから俳優として大きく成功する事は間違いないと思われる。




by canned_cat | 2023-03-17 12:40 | USA映画 | Comments(0)