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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』


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2017年 スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク
4.2 /5点満点

スウェーデンの王立美術館のチーフ・キュレーターであるクリスティアン。彼は裕福で、社会的地位もそこそこあり、離婚はしているがなかなか恵まれた暮らしをしていた。
彼が勤める現代美術の美術館では、今度「ザ・スクエア」という新しい作品を展示し、展覧会を行う事となった。「ザ・スクエア」は、地面に置かれた一見何の変哲もない大きな四角い枠なのだが、その中には「『ザ・スクエア』は信頼と思いやりの聖域です。この中では誰もが平等の権利と義務を持ちます」と書かれている。他の展示と合わせて、人間の信頼性や思いやりを社会に問いかける内容の展示だった。
そんな折、ある日クリスティアンはスリに携帯と財布を盗まれてしまう。GPSで携帯を追跡すると、貧困層の住むアパートに行き当たった。そこでクリスティアンは、盗品を返してもらうべく、ある仕返しに出るのだったが……。

クリスティアンに、クレス・バング。
アンに、『オン・ザ・ロード』 『ハイ・ライズ』のエリザベス・モス。
ジュリアンに、『300 〈スリーハンドレッド〉』『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』『パレードへようこそ』のドミニク・ウェスト。


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2時間半ずっと、自分を試され続けているような気がして、その意味でとても居心地が悪かった。
そう、これは鑑賞者を試す映画だ。もしあなたが、登場人物と同じ立場に置かれたらどうするか。同じ事が起きたらどうするか。同じものを見たら? 聞いたら? 行動するだろうか、沈黙するだろうか。何をするだろうか。そこに常識はあるか? モラルは? 公平性は? 思いやりは? 権利は? 自由は?
クリスティアンに降りかかった悲喜劇は、見方によっては、さして大した事ではないとも言える。スリに遭い、その仕返しに出たら、持ち物は返ってきたがあらぬ恨みを買い、同じ頃面倒な女と親しくなってしまい、そんなこんなでバタバタしているうちに仕事が疎かになり、美術館の宣伝に失敗し、最終的に世間から批判を浴びるまでになってしまう。それらはあくまでも個人的な悲喜劇であり、「あなたならどうするか」と問いかけるほどの大義はないようにも思える。ではそんな物語が、タイトルでもある「ザ・スクエア」とどう結びつくのか? それは恐らく、あくまでも恐らくだが、「ザ・スクエア」という名の思いやりや信頼、或いは平等や義務といった責任感を感じられるプロジェクトに取り組んでいながら、主人公の行動がどんどん責任感から遠ざかっていくという、皮肉だったのではないかと思う。

本作の中で起こる出来事は、先述したように個人的な内容ではあるけれども、誰しも同じ目に遭いかねないようなものでもある。そしてクリスティアンは行く先々で何とも気まずい、awkwardな思いをさせられる──例えば、職場の会議室で。部下と共にスリの仕返しに行ったアパートで。面倒な女と寝た後のベッドで。美術館のパーティーの余興の失敗で。その気まずさたるや、画面越しに見ているこちらまで居た堪れなくて体がムズムズするほどだ。いっそ不愉快に感じた観客もいた事だろう。もしかしたらこの監督は、人を不快にさせるところを眺めるのが好きな人なのかもしれない……そう思えてくるほど、なかなか悪趣味な描写も本作には盛り込まれている。然しである。どれもなかなかにリアルで、且つ生活感に満ちた「気まずさ」である為、やはりそれらは私達の誰もに降りかかりかねない出来事だという気がしてくるのだ。気まずい、居た堪れない思いなど、誰だって出来ればしたくない。だが一度してしまうと、ちょっとやそっとではそこから逃れられない。あなたも私も、気まずい空気の中じっと耐えたり、苦笑いを浮かべて只管やり過ごしたりした経験は一度や二度ではない筈だ。そんな経験を観客に思い起こさせ、気まずい空気をそこいら中に充満させた挙句に、自分が取るべき行動とその理由を一人一人に答えさせようとする。これはそういう映画であり、そういう手腕を持った映画である。

また、忘れてはならない特筆すべき点が、本作にはある。それはこれでもかというくらい、物語の中に明喩・暗喩・対比・象徴といった映画的修辞技法が紛れ込んでいる点だ。そこかしこに、何か意味のありそうな映像や描写が挟まれる。だがそれが何なのか、殆どの場合わからない。物乞いやホームレスは、格差の象徴や人々の無関心の表れとして解り易かったけれど……でも瓦解しかけた椅子は? あのサル人間は? コンドームは? 他の諸々は? 誰かにその意味を訊きたいが、多分誰も教えてくれない。わかったふりでもしてみたいが、そうもいかない。何なの、あのオランウータン?? スウェーデンってオランウータン飼っていいの?? そもそもあれは実在してるの??
兎も角。個人的にはそんなに好みの内容ではなかったものの、意義深い、巧みな技法を持った映画だったと思う。その年のパルムドール受賞は納得だ。




by canned_cat | 2019-07-28 22:45 | その他地域映画 | Comments(0)