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『パリよ、永遠に』


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2014年 フランス・ドイツ
4.6 /5点満点

1944年、8月25日未明。ドイツの占領下にあるパリのホテルに駐留するドイツ軍将軍コルティッツは、ヒトラーの命令により、パリの大掛かりな爆破計画を進めていた。然しそこへ突如、スウェーデン総領事であるノルドリックが姿を現す。スウェーデン人ながらパリで生まれ育った彼は、外交官として中立国を代表し、パリの爆破阻止にやって来たのだった。一対一で話し合う事となったコルティッツとノルドリックは、ドイツ軍最後の抵抗としてパリを焦土と化すか、この美しい街を未来へと守るかで、熱い舌戦を繰り広げる。そうこうしている間にも爆破計画は着々と進められ、最早時間の猶予はない。全ては、コルティッツのGOサイン一つに掛かっている。果たしてノルドリックは、彼を翻意させ、パリという世界の宝を守る事が出来るのか──?

コルティッツに、ニエル・アレストリュプ。
ノルドリックに、アンドレ・デュソリエ。


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上質な佳作だった。
私が聞き知った情報に拠れば、本作は実話を基にして作られた戯曲を更に脚色し、映画化した作品であるらしい。確かに、物語の主軸を担うのはコルティッツとノルドリックの2人だけで、彼らの密談がメインの内容であるから、舞台にも適したコンパクトな造りだ。
原題の「DIPLOMATIE」が意味するのは、グーグル先生曰く「外交」。シンプルだが力強いタイトルである。

時は1944年8月25日。既にベルリンは陥落し、連合軍が続々とドイツに向かっており、WWⅡがドイツの負け戦であるのは明々白々となった時期である。ここでパリを爆破するのは、戦略的には何の意味もない。爆破したところで、戦況は変わらないからだ。では何故、ヒトラーは爆破命令を出したのか? それは作中でも述べられるが、彼は単に、ドイツが崩壊したのにパリが美しく存続し続けるのが我慢ならなかった、それだけなのである。こんな子供の駄々みたいな理由で爆破されては、パリもパリ市民もフランス国民も、そしてパリを愛する世界中の人々も、堪ったものではない。が、それがヒトラーという人間なのだった。

それでも、ヒトラーの命とあっては実行するしかない名将軍、コルティッツ。彼らドイツ軍は既にパリの街中に爆薬を大量に仕掛けており、成功すればパリ一帯が火と水と瓦礫で溢れ返り、壊滅状態となる。けれどもそこへふらりと現れたのが、パリを愛するスウェーデン人外交官、ノルドリックだ。彼は謎めいた登場をするなり、この破壊行為が如何に無意味か、如何に未来に悪影響を及ぼすか、如何にコルティッツの経歴を傷つけるかを懇々と説き、爆破を思い止まるよう説得にかかる。謂うなれば、江戸城無血開城会見のパリ版というわけだ。

ご存知の通り、結果的に、ナチスによってパリが壊滅させられる事はなかった。爆破予定であったノートルダム大聖堂も、ルーヴル美術館も、オペラ座も何もかも、この計画で失われはしなかった。そう、つまり観客は、ノルドリックの説得が成功する事が予めわかっているのである。それでも、前もって結末が判っていてもなお、主演の二人の俳優による情熱的な舌戦、駆け引き、切り札を出すタイミング、世界の宝を巡るたった一夜の静かなる攻防、そういったものに非常に迫力があり、見応えがあった。抑々、歴史的結末は予め判っていても、この物語の結末は観てみないと判らない。一体どのようにして二人の論争に決着がつくのか、どういうオチがあるのか、その辺りをとてもわくわくしながら鑑賞させてもらえる映画だった。支柱となるのは、じっくりと練られた脚本、見事なまでに緩急のついた台詞、味わい深いカメラワークや演出。そして勿論、ベテラン俳優であろうお二人の演技力。派手さはないかもしれないが、鑑賞後の満足度は非常に高い。

最終的にコルティッツを踏みとどまらせたのものは、何だったろう。ノルドリックの熱意か、この計画の馬鹿馬鹿しさか、戦争への倦みか、これから未来を生きて行く子供達への愛か、はたまたパリの持つ魅力か。それははっきりとはわからない。但し、一つだけ言える事がある。ノルドリックの言う通り、街を破壊した将軍は大勢いても、破壊しなかった将軍は少ないだろう。何かを「する」のではなく、「しない」という勇気。それを持てたコルティッツの勇敢さを称え、彼をそこへ導いたノルドリックの情熱と巧みな外交能力を称えたい。




by canned_cat | 2018-10-23 14:37 | その他地域映画 | Comments(0)