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『カサノバ』


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2005年 USA
4.4 /5点満点

近世イタリアに実在した稀代のプレイボーイ「カザノバ」が、一人の特別な女性と出会い、ゆくりなく真実の愛に目覚めていく姿を豪華絢爛に描き出したロマンティック・コメディ。

18世紀、ヴェネツィアの街はある一人の男の噂で持ち切りだった。その男とは数々の女性遍歴を誇る百戦錬磨の色事師、ジャコモ・カサノバ。彼はセックスアピールに溢れ、話術が巧みで女心をたちどころに掴む才能にも長け、その手に掛かれば落ちない女はいなかった。
だが当然の事ながら不品行を働くカサノバは教会から目をつけられており、ある日彼はとうとう修道女との情事がバレて御用となる。親交のある総督の計らいでどうにか無罪放免にはなったものの、その代わりに出された絶対条件が「良家の子女との結婚」。早速富豪の令嬢ヴィクトリアを口説いて易々と婚約を取りつけたところまでは良かったが、そんな彼の前に、男勝りの剣の腕と知性を持つ女性、フランチェスカが現れる。自らの正体を秘していたカサノバに対し、そうと知らないフランチェスカは舌鋒鋭くカサノバ批判を展開、その上女性観や恋愛観についても、学識あるカサノバと対等に議論を戦わせるのだった。
この型破りな女性との出会いは、カサノバをたちまち激しい恋に突き落としてしまう。彼女は親の決めた結婚相手・パプリッツィオとの縁談が決まっていると判明するも、カサノバは自分がそのパプリッツィオだと偽り、ヴィクトリアそっちのけでフランチェスカに接近。フランチェスカは、それが日頃忌み嫌っているカサノバだとは知らないまま、徐々に彼に魅せられてゆく。
同じ頃、ヴェネツィアではその乱れた風紀を正すべく、ヴァチカンからプッチ司教なる人物が送り込まれていた。彼の狙いは異端者カサノバの逮捕、及び昨今若い女性の間で人気となっている進歩主義の思想家・グアルディの逮捕である。厳格なプッチ司教は躍起になってこの二人の正体を突き止めに掛かるが、実はグアルディとは誰あろう、フランチェスカの仮の姿。かくしてカサノバとフランチェスカに危険が迫る中、カサノバに騙された形となったヴィクトリアやパプリッツィオらも加わって、二人の周囲はてんやわんやの大騒ぎに。果たして彼らは無事危機を回避出来るのか。そしてカサノバの真実の愛は成就なるのか?

監督は、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『砂漠でサーモンフィッシング』のラッセ・ハルストレム。
カサノバに、『ケリー・ザ・ギャング』 『ROCK YOU!』のヒース・レジャー。
フランチェスカに、シエナ・ミラー。
フランチェスカの母アンドレアに、『ナインスゲート』 『リスボンに誘われて』のレナ・オリン。
パプリッツィオに、『三銃士』のオリヴァー・プラット。



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これは快作。ラッセ・ハルストレム監督らしい、見やすく、テンポが良く、嫌味がなくて気持ちの良い作品だ。
絵に描いたような「てんやわんや」が盛り沢山なコメディで、ファンタジーめいた演出などもあって少々大仰な内容ではあるのだが、底抜けに陽気で肩肘張らずに観られる滑稽物というのは、やはり人生に欠かせない娯楽だなぁと思う。オチのクオリティが若干甘いとはいえ、それも許容範囲内だ。というか、細かい事をごちゃごちゃと気にせずに純粋に楽しむ、それが本作に於いて最も肝要な点であり、且つ醍醐味であろう。

とにかくお調子者で口も達者なカサノバは、フランチェスカにもその家族にも、パプリッツィオにもプッチ司教にもそれぞれ正体を偽り、挙句ヴィクトリアの事も巧いこと言いくるめて難を逃れようと嘘の上に嘘を重ねて、相当な大風呂敷を広げていく。お蔭で物語はどんどん込み入っていくのだけれど、最後にはそれらの風呂敷(という名の伏線)をことごとく回収し尽くしてくれるため、鑑賞後の後味がとてもよかった。
それにまた、カサノバという世界的なセックスシンボルを題材にしながら、官能的なシーンを少なくして健全な作風に徹し切っている点も、本作の場合は好印象に映った。こういう筋書きならば万人にとって見やすく、品性も感じられる。古都ヴェネツィアの魅力を存分に盛り込んだ風雅なロケーションや、華麗な衣装や美術の数々と合わせて、エレガンスがこのコメディを上手に味付けしてくれていた。

では、口当たりが良いだけで中身がカラッポな映画かというと、決してそんなこともない。物語にちゃんと大事な筋が一本通っているあたり、そこも流石ラッセ・ハルストレム作品である。まだ女性に対する束縛が厳しかった時代にあって、物怖じせずに女性の権利を主張し、勇ましく女性性の解放を唱えるフランチェスカは絶対的に立派だったし、それを尊重するカサノバの姿も紳士的だった。どちらのキャラクターも人物造形がしっかりしているので、カサノバがフランチェスカに惹かれるのも納得がいく上に、どれだけ女誑しで大風呂敷を広げていようと、カサノバが不誠実な人間に見える事はない。稀代のプレイボーイが真実の愛に目覚めるという本作の概要はありきたりなものではあれど、作品の中で正しく実践されていたと思う。

そもそも基本的にカサノバという人は、旧い時代の男性にしては珍しく、女性に敬意を払い得る人物であったようだ。多分いたずらに女性を誑かす事だけを目的とするプレイボーイとは違い、互いに愛し愛される事に悦びを見出そうとする感情(或いは欲求)に人並み外れて富んでいた、恐らくはそういう意味でのプレイボーイだったのではないだろうか。確かに、経験豊富な上にちゃんと相手に注意を向けて敬意を払える男性となれば、そりゃまぁ女性にモテない方がおかしい。つまるところ彼は憎めないタイプの人間だったのだろうと推察するわけだが、その憎めない感じが、どことなくカサノバを演じたヒース・レジャー本人の持ち味にも合致していた気がする。過去に観た出演作でも感じた事だけれど、ヒース・レジャーという役者は何とはなしに人懐っこい感じを与える、人好きのする雰囲気を持った人である。私は実際のカサノバの事はよく知らないし、他のカサノバ映画も観た事はないけれども、少なくとも本作のような愛嬌があってちょっとお茶目なカサノバ役には、彼はぴったりであった。
ちなみに、他のどの役者さんも申し分なかったが、個人的に特筆したいのはやっぱりジェレミー・アイアンズ。今回は如何にもコメディの悪役めいたコテコテのヒール役を、超がつくほど大真面目に演じてくれている。彼が真面目になればなるほど、たまらなく可笑しい。ちょっぴり間抜けな風合いの鬘であるとか、ばかみたいに派手な紫色の衣装なども笑いを誘う。つくづく、舞台出身の俳優さんはコメディが上手いよなぁと思う。




Commented by amore_spacey at 2015-05-19 05:24
『恋のからさわぎ』でヒース・レジャーにハマッた頃、これも観ました。嵐やスマップの誰かを、客寄せパンダ的にドラマの主役に抜擢して作りました、みたいな軽薄なノリかな?と思ったのですが、いえいえとんでもありません。ヒースならではのカサノヴァでしたね。米伊合作のIl Casanova di Federico Felliniより、ずっとクールで庶民に近い視線で描かれているところに、好感が持てました。そう、ヒースって人懐こくって、悪役をやっても憎めないんですよね。
Commented by canned_cat at 2015-05-21 23:00
amore_spaceyさま

こんにちは^^
これはハマり役でしたね~。カサノヴァはカサノヴァでも、人間味があって親しみが持てて、でも気取っていないのにスマートで! ヒース・レジャーさんらしくて素敵でした。彼の場合、下手に美少年すぎたりダンディすぎたりしないところが、却って爽やかで良かったなと思います。
因みに本国イタリアでは、やはり”カサノヴァもの”って多いんでしょうか? 映画に限らず、演劇とか、小説や何かとか。私はドナルド・サザーランドさんも凄く好きなので、機会があったら'76年版も観てみたいです。

あ、そういえばドラマの『Forever』、1シーズンのみで打ち切りが決まってしまったそうですね(涙)。ものすごく残念です……あんなに面白いドラマなのに~!!
ネット上では継続を望むファンによる署名活動が盛んに行われていて、クリエイターも発表の場さえ確保できればSeason2を作るつもりがあるようですし、何らかの形でどうにか続いてくれると良いのですが(>_<)。
by canned_cat | 2015-04-23 23:06 | USA映画 | Comments(2)