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『わが街 セントルイス』


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1993年 USA
4.8 /5点満点

舞台は1930年代、大恐慌時代のセントルイス。
主人公の12歳の少年・アーロンは、両親と弟と共に小さなホテルの一室を間借りして貧しく暮らしていた。然し突然母が病気で倒れ、父は生活のため単身で行商に出てしまう。幼い弟は親戚に預けられる事になったが、アーロンはたった一人で生きていかねばならなくなる。

アーロンを演じたのは、現在も俳優として活躍しているジェシー・ブラッドフォード。
同じくホテルに住むアーロンの兄貴分・レスターに、『戦場のピアニスト』『ミッドナイト・イン・パリ』『デタッチメント 優しい無関心』『エクスペリメント』『エスケイプ』のエイドリアン・ブロディ。


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良作でした。
筋書きも良いし、キャラクタも良いし、テンポも良いし、役者も良い。凄く良い作品でした。
なのに何故でしょう、この映画がほとんど話題になっていない様なのは? 検索しても大して情報が出てこないんです。もちろん劇場未公開です。一体どうしたことでしょう!
監督はスティーヴン・ソダーバーグさんという方で、不見識な私には初めて聞くお名前でしたが、実際にはこの方はデビュー作でいきなりカンヌのパルムドールを、それも史上最年少で受賞なさったという「鬼才」だそう。そしてその後も、『オーシャンズ11』などのヒット作を生み出している監督さんだそうです。……いや、超有名人じゃないですか。つまり触れ込みも申し分なければ、出来栄えも申し分ないわけじゃないですか。なのになぜだ!
どうも聞いたところによると、ソダーバーグ作品は基本的にエッジの効いた作風を特徴としており、それがまた人気につながっているとか。となると、本作のようなあたりの柔らかい作品は、彼のファンには些か物足りないのかもしれません。でもこれはこれで、とても素敵でしたけど……。

因みに「あたりが柔らかい」とはどういう事かと言いますと、簡単に言えば、この物語には大きな事件は起こらない、という事。
幼気な少年がサヴァイヴァルを課されるという過酷な筋書きの割には、例えば生きていくためにマフィアに弟子入りして、やがて暗黒街を牛耳る伝説のドンになったりもしませんし、散々虐められた末に「同情するなら金をくれ」などと決め台詞を放ったりもしませんし、或いは可愛い弟が貧困生活の果てに「兄ちゃん、ドロップたべたい」とか言って死んだりもしません。
そして、結果的にはアーロンのサヴァイヴァル生活は数週間で終止符が打たれ、結末はこちらもびっくりするほど予想外に大人しく終わったので、私としても若干拍子抜けの感はありました。大体、最後お父さんが何事もなかったみたいな顔して出てきますけど、あなたそれ育児放棄ですからね。ほのぼの終わってる場合じゃありませんからね。
したがって確かに、ハリウッド受けするような作品ではないのはまぁ解らないでもない。しかしそれでも忘れてはならないのは、わずか12歳の子どもにとっては、たった数週間だけでも一人ぼっちで暮らす羽目になるって、それだけで大事件だという点です。間違いなく彼にとっては天変地異で、文字通りの死活問題なわけです。
そんな中でアーロンは、どうにかしてお金を稼ごうとしたり、一人で学校生活を乗り切ろうとしたり、隣人たちの今まで知らなかった違う顔に気づいたりと、彼なりの人生経験を積んでいきます。小さな出来事たちを通して少年が初めて「世界」を見た、本作ではそういう描写が非常に優れていると感じました。

個人的に一番涙を誘われたのは、アーロンがカタログの写真で食事するシーン。あのシーンはもう、アーロンが不憫で不憫でたまらなくなります。でもその一方で、映画のワンシーンとしては非常に面白い趣向となっていますね。
そもそも舞台がホテルというのが面白い。それも「ホテルに泊まっている」のではなく、「ホテルで暮らしている」。そこがとても面白いです。元々、ホテルって一つの建物の中にコンパクトに独特のコミュニティが成り立っているものですし、そのシステムも、ガジェットも、物語の宝庫。だからホテルものって、それだけでときめいてしまいます。本作でも、ベルボーイやエレベーターガールの存在が巧く物語に取り込まれていました。
なお当時まだ無名だったであろうエイドリアン・ブロディも、ご近所(同じホテルの住人)のイカしたおにいちゃん役で登場。この人がとっても良い存在でした。「当たり役」と言うほどではないのかもしれないけれど、味わいのある、記憶に残る役どころでした。因みに彼、この当時はまだガリガリじゃないです。そこも新鮮。




by canned_cat | 2014-02-23 23:59 | USA映画 | Comments(0)