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『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』


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2013年 UK・USA
4.8 /5点満点

主人公は、自分に自信が持てず彼女もいない、冴えない青年ティム。彼は21歳の誕生日に、父親から驚くべき話を聞かされる。なんと彼の一家の男性には、タイムトラベル能力が備わっているというのだ。暗がりで拳を握って目を瞑り、頭の中で思い浮かべるだけで、過去にタイムトラベル出来る。但し過去にしか戻れず、未来には行けない。そして自分の人生の過去にしか戻れないため、大昔にタイムトラベルして歴史を変えたりする事は出来ない。然しそれが自分の過去でさえあれば、いつ如何なる瞬間にも戻れて、やり直しが可能だという。荒唐無稽な話に初めは呆れ返るティムだったが、父の話は事実だった。
こうしてタイムトラベル能力を手に入れたティムは、主に目下の最大の関心事である恋愛にその能力を使おうとする。女性を相手にどうにかして振り向いてもらおうと、ドジを踏んでは過去に戻ってやり直しを図るのだが、なかなか上手くいかない。
程なくして就職し、実家を離れてロンドンで暮らし始めたティム。やがてメアリーという女性と出会い、運良く彼女の気を引く事に成功する。ところが、彼がとある理由で過去に戻り、一つの出来事をやり直したところ、その影響でメアリーとの出会いが丸ごと消滅してしまう。メアリーこそ運命の女性だと確信するティムは、なんとかして再び彼女と出会うべく奔走するのだったが……。

監督は、『パイレーツ・ロック』のリチャード・カーティス。
ティムに、『わたしを離さないで』のドーナル・グリーソン。
メアリーに、『ミッドナイト・イン・パリ』『きみに読む物語』のレイチェル・マクアダムス。
ハリーに、『プライドと偏見』『路上のソリスト』『ワルキューレ』 『プリンス ~英国王室 もうひとつの秘密~』のトム・ホランダー。


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現在絶賛上映中の本作。評判通りの、そして期待以上の素敵な作品でした。
ドラマであり、コメディであり、ラヴロマンスであり、SF(広義の)でもあり、そのどれも満遍なく楽しめる内容になっています。

実は私は、”メアリーとの出会いが消えてしまった”ところまで来たとき、あぁこれはそういうお話なのかなと早合点しかけたんです。きっとこの後ティムはメアリーを目指して何度も過去へ戻って、その度に失敗したり邪魔が入ったりしながら、最終的には思いもかけない形でまたメアリーと巡り会い、ハッピーエンドになるのだろうと。過去を操作した結果恋人と擦れ違ってしまうなんていうのは、タイムトラベルものの王道の一つですよね。
ところが、この映画は違いました。それだけで終わりじゃないんです。なんとそこから一回りも二回りも、物語が膨らんでゆきます(三回りぐらいあったかもしれない)。そこが凄かった。つまりティムとメアリーの出会いは、この物語にとってはまだほんの序の口。「アバウト・タイム」のタイムとは、ティムとメアリーの時間だけでなく、もっと長いスパンで以てティムの人生全体を流れる時間を見つめたものであり、延いては人間の一生に絶えず横たわっている時間というものについて、私たちにとくと考えさせる内容なのです。
もし本作を一言で定義するとすれば、それは「ラヴストーリー」であろうと私は思いますが、その「ラヴ」の対象も、やはりメアリーに限らずティムの家族一人一人や、ティムが関わる全ての人々を指しています。主人公はそれらの大切な人々と過ごす時間を、タイムトラベル能力を持った人物ならではの方法で精一杯慈しんでいく、そういうストーリーでした。

また、この映画は基本的にはSFではありません。仮にもタイムトラベルという材料が含まれている以上、広義のSFにはなるでしょう。が、他には一切SF的な要素はないため、狭義のSFとは言えないと思います。そもそもこの作品はきっと、タイムトラベルのお話を描きたかったのではなくて、人生の時間について描きたかったから、タイムトラベルという道具を持ってきたのだと思います。しかしながら、本作は私の知る限りの他のどんなSF作品よりも、タイムトラベルの意義について深く考察されてありました。
例えば、もし本当に過去へタイムトラベル出来たとしたら、私たちは何をするか。もちろん、まずはその日の仕事のミスを消しに行ったり、昨日の自分の失言を撤回しに行ったり、若気の至りを取り消しに行ったりするでしょう。それから、賭け事や株式など、お金儲けに走る人もいることでしょう(実際、ティムのお祖父さんはそれで身を滅ぼしたそう。で、"だからそれはやめとけ"と父親に言われて、ティムはすんなり言う事を聞きます。偉い 笑)。
けれどこの映画のように、長い人生の中でずっとその能力と付き合っていくうちには、段々とタイムトラベルの使い方も変わってくるに違いありません。大切な家族や恋人の傍らで年を重ねるにつれ、利己的な目的以外のためにタイムトラベルしようと考えるようにもなるだろうし、或いは、本人にとってタイムトラベルの価値自体が変わってくることもあるかもしれない。だって誰かとかけがえのない時間を過ごせたのなら、過去に戻ってやり直す必要などなくなるのですから。
それに過去に戻る時にも、せっかく戻れるのだから単にセオリー通りにやり直すばかりじゃなしに、他にどんな時間の使い道があるかを主体的に考えてみることも大切です。思えば、我々は日常でもよく「過去に戻ってやり直せたらなぁ」なんて言いますけれど、要は普段私達が過去に戻りたいと願う理由って、基本的にはネガティヴなものなのですよね。本作ではその発想にもっとポジティヴな広がりを持たせています。
こうした、「過去に戻る」という命題に対するこの映画の実際的且つ建設的な考察の仕方は、どれも大変興味深いものでした。それに伴う形で、主人公が人生や愛について真摯に向き合ってゆく姿勢も、非常に好印象です。
しかし一方で、”何度でもやり直しがきく”というのは、便利なようで恐ろしいことでもあります。日々、些細な事でしくじる度にすぐさま過去に戻ってやり直し続けるティムを見ていると、君は本当にそれでいいのかと、問い質したいような気持ちを覚えました。詳細は伏せますが、特にティムが初めてメアリーのアパートを訪れたシーン、あそこで何度もやり直すのはちょっとどうかと……。そりゃ確かに、モテない青年ならではの笑いを誘ってはくれるんですけれども、私だったらあれを何度もやり直されてたら嫌だなぁ(苦笑)。
とはいえこのシーンでも、タイムトラベルという夢のようなシステム――ご都合主義の願望の表れと言ってもいい――が孕んでいる危険について、観客にはちょっとした警句が投げかけられていたように思います。

ただ、一つだけ本作のタイムトラベルの仕組みに関してどうしても気になってしまった点がありまして。それは、肝心なところでそのシステムの整合性がとれていなかったこと。
元々SF目的の作品ではないので、仕組み自体かなりあっさりしたものではあるんです。なんせ暗闇で目を瞑るだけでOKなんで(笑)。それに”未来には行けない”としていながら、現在(=過去から見た未来)には戻れたり、他にも「あ、そういう事もできるの?」っていう展開がしゃらっと出てきたりします。まあ、私自身はSFマニアではないですから、本来なら細かい設定にまでこだわる気はありません。
ところが終盤の凄く大事な場面、即ちティムが大きな決断を下す場面で、重要な問題が整合していなかった。そこがどうにも引っかかってしまい、そして引っかかったままエンディングを迎えてしまいまったのが残念でした。作品全体から見れば些細な問題でしかないのですが……そうはいってもここまで大事な場面での矛盾は、ちょっと、歓迎できない気がします。勿体なかったな~。

ところでティム役を演じたドーナル・グリーソンは、ブレンダン・グリーソンの息子さんなんだそうですね。いや、良い役者さんじゃないですか~。まだ若いですし、今後の活躍が非常に楽しみな俳優さんの一人です。
そしてビル・ナイ先生は、今回も素晴らしく素敵でした。穏やかでおちゃめな性格の、可愛らしいお父さん役です。わけても自ら実況中継しながら卓球するシーンは最高に笑える! さすが先生、ウィットに富んだ台詞がお似合いです。
固より、ティムの家族はみんなすっごく仲良しだし、大体がこの映画には良い人と素敵なエピソードしか出てきません。こんなに快い映画を観たのはいつぶりかしらというぐらい。やっぱり観ていて気持ちのいい映画って、大事ですね。




by canned_cat | 2014-11-05 22:34 | UK・USA映画 | Comments(0)