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『アメイジング・グレイス』


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2006年 UK
4.8 /5点満点

18~19世紀の英国に於いて、奴隷貿易廃止に貢献した事で知られる著名な政治家、ウィリアム・ウィルバーフォースの物語。
博愛精神にあふれた青年ウィリアム・ウィルバーフォースは、イギリスの収入の多くが奴隷貿易によるものであることに心を痛めていた。若くして国会議員となったウィルバーフォースだったが、すべての人々の心の救済を信仰に求めて聖職者の道を選ぶべきか思い悩んだとき、政治の世界にとどまるよう後押ししたのが恩師である牧師ジョン・ニュートンだった。かつて奴隷船の船長をしていたニュートンがその罪を悔いて作詞したのが『アメイジング・グレイス』。ウィルバーフォースはこの曲を心の支えに、政治家として奴隷貿易廃止を懸命に訴え続けるのだったが…。(allcinemaより抜粋)

ウィリアム・ウィルバーフォースに、『タイタニック』『キング・アーサー』のヨアン・グリフィズ。
ウィルバーフォースの親友であり、時の首相であったウィリアム・ピットに、ドラマ『シャーロック』『ミス・マープル』、『ブーリン家の姉妹』『裏切りのサーカス』 『フィフス・エステート』のベネディクト・カンバーバッチ。
反奴隷制運動のもう一人の代表的人物であるトマス・クラークソンに、『パリ、ジュテーム』のルーファス・シーウェル。
ジョン・ニュートンに『ビッグ・フィッシュ』『ミラーズ・クロッシング』のアルバート・フィニー。
フォックス卿に『グッド・シェパード』『英国王のスピーチ』『ファンタスティック Mr.FOX』 『プリンス ~英国王室 もうひとつの秘密~』 『カルテット! 人生のオペラハウス』のマイケル・ガンボン。
タールトン卿に『裏切りのサーカス』のソルジャーことキアラン・ハインズ、クラレンス公に同じく『裏切りのサーカス』のティンカーことトビー・ジョーンズ。


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素敵な映画でした。気品があって、上質で、UK映画らしい作品です。
本作では奴隷貿易及び奴隷制度という非常にシリアスなテーマが扱われていますが、といって必要以上に暗くなりすぎる事はなく、とても観やすい内容であるのが魅力。そして奴隷貿易の撤廃という、険しくて困難な問題に立ち向かうストーリーの中でも、登場人物たちが皆活き活きと動いていたのが非常に印象的でした。UK映画らしくウィットにも富んでおり、特にゴルフのシーンなんてもう、笑った笑った! これだからUK映画はたまりません。
役者の布陣も最強ですね。英国演劇界を代表するような手練れの俳優さんや、味のある俳優さんばかり集まってくれています。個人的には、知っている顔ぶれが多かったのも嬉しいところです。

"奴隷廃止運動"などと聞くと、著名な運動家としてはやはりどうしても真っ先にリンカーンを思い浮かべてしまいがちですけれども、ウィルバーホースの活躍により英国で奴隷貿易が禁止されたのは、リンカーンが奴隷解放宣言を出すおよそ60年前、1807年のこと(因みに英国での「奴隷制度」の廃止は1833年、ウィルバーホースが亡くなった直後だそう)。これは、奴隷貿易の禁止法としては世界に先駆けたものだったといいます。
但し一口に"奴隷廃止運動"と言っても、「奴隷貿易」と「奴隷制度」は元々別個の問題であり、本来はそれぞれ分けて考える必要があるわけですが、とはいえウィルバーホースが奴隷制度の撤廃を目指して奴隷貿易の廃止に尽力した事は確かであり、また彼が成し遂げた奴隷貿易禁止法が、英国の奴隷制度を撤廃に向けて大きく前進させたであろう事は、考えるまでもありません。そして英国が奴隷貿易を禁じた1807年以降、諸外国も次々と奴隷貿易を廃止し、やがては奴隷制度の世界的な廃止へと繋がっていきます。そう考えると、世界にとって本作の主人公ウィルバーホースが成した功績は、いや、途轍もなく大きい。
そんな良心と信念の人・ウィルバーホース。然しこの映画を観ていると、彼が単に理想や情熱一辺倒だけで突き進む人ではなかった事もわかります。面白いのは、彼らは奴隷廃止運動を展開するにあたり、巧みに政治的戦略を画策していくという点。民衆に対しては効果的なキャンペーンをあれこれと考え出し、国会の反対勢力に対しては時に悪知恵を働かせて彼らを操り、そして法案を可決させる為に必死に法の抜け穴を探していく……。こうしたシーンには、私自身大いに知的好奇心を刺激されたものでした。つまりウィルバーホースという人は、偉大な政治家であると同時に、偉大な戦略家でもあったのですね。

さて、このウィルバーホースを演じたヨアン・グリフィズがまた素晴らしかった。若く熱意のあるウィルバー(彼の愛称)、身体を擦り減らし苦悩するウィルバー、再び情熱を取り戻すウィルバー、葛藤するウィルバー……どの姿をとってもお見事です。これは彼のキャリアの中でも、間違いなく当たり役(且つハマリ役)の一つでしょう。きっとUK本国でも、ウィルバーホースといえばヨアン、みたいに位置づけられているのではないでしょうか(他のウィルバーホースがいるのかどうか知らないけれど)。
英国首相を演じたベネさんも、全き安定感のある演技を見せてくれています。こちらも喝采もの。でも個人的に一番衝撃を受けたのは、トマス・クラークソンを演じたルーファス・シーウェル氏!


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殆ど初めてお目に掛かりましたが(『パリ・ジュテーム』の記憶が曖昧だったもので)、いや、ものすごく良い役者さんですね! めちゃくちゃ上手いわ顔は端正だわ目つきの存在感半端ないわで、びっくりしました。ウィルバーと二人で悪だくみ(笑)するシーンなんて、ほんと痛快で最高。
ただ、試しに彼が出演している他の映画を調べてみたところ、あれれ、なんだか微妙な映画が多い……(笑)。コスプレ系映画や(まあ本作もそうなんですが)エンターテイメント作品が目立ち、尚且つ悪役が多い模様です。知人に聞いたところでは、彼は「いけすかない役が多い」んだとか。えーっ、この人絶対文芸作品も似合いますって。もっと言えば、コメディの素質も間違いないですって。本作でも、表情の間の取り方が絶妙でしたもん! あと髪は長い方が絶対良いと思う、このクラークソンみたいに。
ドラマだったら、もっと幅広い役をおやりになっているのでしょうか。そのあたりも気になります。




by canned_cat | 2014-10-07 23:04 | UK映画 | Comments(0)