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『フラクチャー』


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2007年 USA・ドイツ
4.7 /5点満点

テッドに、『白いカラス』『日の名残り』『ドラキュラ』『マスク・オブ・ゾロ』『羊たちの沈黙』『チャーリング・クロス街84番地』 『ハンニバル』 『浮気なシナリオ』 『アトランティスのこころ』 『恋のロンドン狂騒曲』のアンソニー・ホプキンス。
ウィリーに、『きみに読む物語』のライアン・ゴズリング。
ニッキーに、『プライドと偏見』のロザムンド・パイク。

大手法律事務所への引き抜きが決まりかけているやり手の若手検事・ウィリーは、妻を銃で撃って逮捕された著名で裕福な航空技師・テッドの事件を担当することになった。テッドは既に犯行を自供しており、事件には他に疑わしい点もなく、全く張り合いのない簡単な案件に見えた。ウィリーは、これから自分を待っているセレブな生活を想像して浮き足立ちながら、大して気乗りもせずにこの裁判を引き受ける。
起訴されたテッドは、なんと弁護士を立てずに自己弁護をすると言い出した。おいおい正気か、この爺さん……と、冷やかし半分で法廷に臨んだウィリー。ところが、テッドはとんでもない隠し球を持っていた。彼のその巧妙な策略によって、状況はあっさりひっくり返され、裁判はあれよあれよという間に無罪判決の方向へ。今裁判で負ければ、法律事務所の引き抜きの話が立ち消えになる事は明白であり、たちまち窮地に追い込まれてしまったウィリー。果たしてこのまま、約束されていたはずのエリート人生はパアになってしまうのか。そもそも、テッドの本当の狙いは何だったのか。そして、事件の真相とは何なのか?


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以下、ネタバレあり。物語の核心部分には触れませんが、細かい筋書きについて記述します。


いやあ、面白かった! 良質な、ミステリ仕立てのクライムサスペンスです。半分がたは法廷劇ですね。
キャッチコピーはずばり、「I SHOT MY WIFE...PROVE IT.=私は妻を撃った…それを証明してみろ」。まさに、これはそういう話なんです。どう考えても奥さんを撃ったのはテッドであり、実際彼は自白までしたというのに、途中からその自白は無効となって彼の犯行は立証出来なくなっていくのです。当然、テッドはそれを見越した上で捕まり、自供し、自己弁護までしてみせたというわけ。く~っ、策士!
因みに「SHOT」であって「KILLED」ではないのは何故かというと、彼の妻は一命は取り留めたから。但し意識不明の重体で、供述は不可能な状態にあります。本来、被害者から供述が取れないという点では彼女が生きていようが死んでいようが変わりはなさそうなものなのですが、しかしこのお話では、彼女が「死んではいない」という事も重要なミソになっていたりします。く~っ、精巧!

そんな中、このテッドという余裕綽々で完全犯罪を目論む老獪なおっちゃんを、サー・アンソニーがいつものように怪演しているわけですが。これがもう本当にお見事! まず冒頭の犯行シーンの、彼の迫力が凄まじい。そして、その後はとるにたらないその辺のおじーちゃんだと思わせておいて、いざ「ちょっと待て、こいつ只者じゃないぞ!」とウィリーに思わせる瞬間の、あの鮮やかなお手並み。いやはや流石です。完璧です。ひれ伏したい気分です。というか、そもそも相手はアンソニー・ホプキンスなんですからね、そりゃ只者じゃないに決まってますよね。見くびったウィリーが悪い(笑)。
とはいえテッドは、老獪で強かな反面、茶目っ気もたっぷり。雰囲気にも喋り方にも愛嬌があって、とてもじゃないけど凶悪犯罪を犯した人間にも、虎視眈々と完全犯罪を狙う人間にも見えません。それこそ「ta-ta!」(ハンニバルのお決まりの挨拶)とか言いそう。だからつい、「おっちゃん」とか「おじーちゃん」とか形容したくなるのです。

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予審のシーン。ここから興味津々という感じで法廷を覗き、「もしもーし!」みたいなノリで裁判官に話しかけたりするとこなんかめちゃくちゃかわいかった。

さて対するライアン・ゴズリングですが、彼は彼で、当初ぶいぶい調子に乗ってあえなく撃沈させられながらも、そこから段々と雑草魂を見せてくるところがこれまたよろしい。元来ウィリーがあれほどスターダムに憧れていたのは、元々はセレブ階級の出でもエリート家庭の出でもなかったからであって、彼は今まで実力だけでここまでのし上がってきたド根性人間なんですね。ただの小器用なエリートではないわけです。そんなウィリーが一回ガツンとやられて目を覚ましてからの、そっからのテッドとのガチンコ勝負がたまらなく面白い。やっぱり、いくらなんでもサー・アンソニーの一人勝ちじゃつまりませんものねえ。
「隠し球」のからくりに関しては、わかってみれば案外簡単な仕掛けだったりもするんですけど、それでも最小限の武器で最大限の効果を上げてみせているあたり、この映画の作り手はミステリの作者として非常に達者だと思います。映像でも観客をぐいぐい引き込んでくるし、見せて良いところはほいほい見せておいて一番大事なとこだけは絶対に見せないという、きっちり計算された構成も素晴らしい。

……と、事程左様に優れた作品であるにもかかわらず、実はこの映画、日本では劇場未公開どころかDVDにもなっていません。こんなに面白い作品なのに、一体どうした事でしょうか。そりゃまあ、2時間もののTVドラマでもいけそうなコンパクトな内容ではあるので、劇場未公開になったところまではまだ理解出来ますが……DVDスルーすらスルーされた理由がさっぱりわからない。ミジンコほどもわからない。今からでも遅くはありません、どなたかこの映画を可及的速やかにソフトで販売して下さいっっ。




Commented by 百日紅 at 2015-05-05 00:46 x
はじめまして。何かおもしろいミステリー映画はないかな、と探していて、この映画の存在を知りました。
とてもおもしろそうなのでぜひ見てみたいのですが、その動画配信サイトというのはどこかおわかりになりますか?私も探してはみたんですが、結局見つからず・・・もう配信は終了してしまったんでしょうか。
Commented by canned_cat at 2015-05-07 21:18
百日紅さま

こんにちは、コメント有り難うございました^^
そうですね……私の知る限りでは、日本の正規の動画配信サイトでのこの映画の配信は、既に終了しているようです。
記事にも書きましたが、これは本当に魅力的な作品で、動画配信どころか一般に鑑賞する機会が設けられていない事はまことに残念でなりません。ミステリ愛好家の方々にもきっと好まれる映画だと思いますし、固よりアンソニー・ホプキンス×ライアン・ゴズリングなんていう豪華タッグなら、需要も多いと思うのですが……。
百日紅さまもご覧になれるよう、いつか本作がソフトで観られる日が来る事を一層願っております。
Commented by canned_cat at 2015-05-21 22:59
百日紅さま

これをご覧頂けているかどうかわかりませんが、前回のコメントへの補足です。
嬉しいことに、丁度今、Huluで『フラクチャー』が配信されています。先日お返事した時には確か配信していなかったと思うのですが、予想外に早くまた『フラクチャー』が観られるチャンスがやってきてくれたようです^^ 百日紅さまがこのチャンスをお見逃しになりませんよう、陰ながらお祈りしています。
by canned_cat | 2014-08-03 21:57 | その他地域映画 | Comments(3)