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『ゴーストワールド』


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2001年 USA
4.4 /5点満点

高校を卒業したばかりのイーニドとその親友レベッカは、これといってやりたい事もなく、進学も就職もせずにただ地元でぶらぶらするだけの毎日を送っていた。ある日彼女達は、たまたま新聞の出会い広告欄で見つけたシーモアという冴えないオタク中年男をからかってやろうと、いたずらで彼を呼び出し、尾行する。だが自分と同じように社会に上手く順応出来ずに生きているシーモアにシンパシーを感じたイーニドは、後日彼のアパートのヤードセールを訪れ、シーモアと親しくなっていく。イーニドがシーモアとつるみ出す一方で、レベッカはカフェで働きだし、自立へのスタートを切る。いつまでもモラトリアムの中にいるイーニドと、一人そこから抜け出して着実に社会人の道を歩き始めたレベッカ。無二の親友だった二人の間には、次第に距離が生まれてゆき……。

イーニドに、ソーラ・バーチ。
レベッカに、『アイランド』『ブーリン家の姉妹』『私がクマにキレた理由』のスカーレット・ヨハンソン。
シーモアに、『ビッグ・フィッシュ』『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』『コン・エアー』『アイランド』『パリ、ジュテーム』『アルマゲドン』『ビッグ・ダディ』『デンバーに死す時』『ビリー・バスゲイト』『イン・ザ・スープ』『エスケープ・フロム・L.A.』『ミラーズ・クロッシング』『レザボア・ドッグス』『デスペラード』『バートン・フィンク』『パルプ・フィクション』『コーヒー&シガレッツ』『未来は今』『灰の記憶』『ドメスティック・フィアー』 『オン・ザ・ロード』『ボディ・クッキング/母体蘇生』、ドラマ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』のスティーヴ・ブシェミ。
イーニドの父親に、『幸せのレシピ』『ムーンライズ・キングダム』 のボブ・バラバン。


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これは予想外の良作。
原作の同名コミックはアメリカのティーンエイジャーのバイブルだとかいう話だが、本作も、思春期をこじらせた少女たちの敏感な心理を、時にユーモラスに、時にほろ苦く描ききった瑞々しい作品だ。
個人的に言っても、私はソーラ・バーチさんやスカーレット・ヨハンソンさんと大体同じ世代であるし、こじらせていない方では決してなかったので、自分がハイティーンだった頃の事をリアルに思い出しながら鑑賞した。

イーニドとレベッカは、二人揃って冷めた性格の持ち主。言動が常にシニカルで、世間や大人というものに対して完全に斜に構えた少女である。同級生たちがキラキラと目を輝かせて次のステージへと羽ばたいて行く中、彼女たちだけはしらっとした顔でプー太郎生活へとなだれ込む。多分彼女たちは、「学校」というクダラナイものとオサラバ出来ただけで清々と満足したのだろう。
しかし、流石にいつまでもそのままというわけにはいかない。二人はぼちぼち職探しを始め、仕事が決まったら二人でアパートを借りようと話し合う。そしてレベッカは適当なところでちゃんと新生活をスタートさせるのだが、イーニドは何故かそれが出来なかった。端から職探しには身が入らず、漸く仕事に就いたかと思えば案の定長続きせず、自分が何がしたいのか自分でもわからなくなってしまうイーニド。こうして彼女は、一人だけ宙ぶらりん状態のまま、漠然とした孤独と焦燥感を抱えていく。

人は学生生活を終えると往々にして気づくものだが、「学校」というシステムは、意外に便利なものだったりするんである。どんなにつまらなくても、バカバカしく思えても、学校に通っている間は「学生」という特定のカテゴリに所属していられる。高校ぐらいまでなら、特に意志や目的を持たずとも漫然と通っていれば済むし、真面目に勉強なんかしなくたってちょっとやそっとじゃ追い出されない。学生をする事で発生する責任なんていうものも、殆どない。学校や教師から与えられるものをただ享受するか、文句を言うかだけしていれば良いのだ(良くはないけど)。
けれども学生生活を終えると、途端にそうではなくなる。そこから先は自分自身で方針を決め、自分の足で進んでゆかなくてはならないからだ。今までのように、ぶちぶち文句を言いながらも誰かの敷いたレールに乗って暮らしていけた日々はもう送れない。そこには、学校という名の安住の地から放り出されて社会に出る時期に特有の、戸惑いや心許なさや、昨日と同じ自分なのに今日からは子供でいられない寂しさみたいなものが、確かにある。イーニドはきっと、そこでつまずいたのだ。卒業後の彼女は曰く言い難い不安、寂しさ、虚無感に苛まれ、この先どうしたらいいのか、どこへ行けばいいのか、それを指し示してくれる指針をすっかり失ってしまった。元々個性的な性格ゆえに周囲から浮いた存在だったイーニドには、臨機応変に状況に適応するという事も苦手だったのだろう。もっとも浮いていたのはレベッカも同じだけれど、彼女の場合はイーニドよりも幾らか器用で、そしてイーニドほど感傷的ではなかったのだと思う。その事が、似た者同士の良いコンビだった二人の道を、はっきりと分ける事になってしまった。
否応なしに大人への階段を昇らなければならない時のあの侘しさ、そして学生時代の親友といつの間にか進む道が違ってしまったと気づいた時の、あの置いてけぼり感。本作では、そういった思春期後半の女の子達の複雑な心境が、非常に鮮明に描写されている。ソーラ・バーチもスカーレット・ヨハンソンもとてもフレッシュだし、十代の女の子特有のパワーを持った内容ではあるので、決して陰気な映画ではない。それでも、要所要所でふっと胸に迫るようなほろ苦さを味わうのだ。そのあたりのバランスが絶妙で、作り手のセンスを感じた。

さて、そんな繊細な小娘に振り回されるシーモアを演じるのが、私も大好きなブシェミどん。このシーモアがとっても良かった。レコードマニアのシーモアは見るからにオタク丸出しで、時代遅れのズボンに地味なシャツをきっちりインして、その下には常にグンゼっぽいアンダーシャツが見え隠れしているという駄目押しっぷり。うちのおじいちゃんが大体いつもあんな恰好してますけどね。
で、まんまと若い女の子達にからかわれた上、イーニドにはズカズカと土足で踏み込まれて、”あたしがあんたのガールフレンドを見つけてあげる!”なんて言われてあれこれとお節介を焼かれた挙句、折角いい人が出来かけたと思ったら今度はイーニドに強引に迫られる始末。例によって気の毒な役どころではあるわけだが、ただ今回はいつもと違って、もっと中身のある役だったのが嬉しい。確かにシーモアはちょっとダサいし神経質なオタクだけれど、優しいし、不器用でほっとけなくなっちゃうような愛しいキャラクターだ。私だったら、ブシェミとねんごろになれたらもうそれ以上のものは望まないのだけど(笑)……しかしどうやらイーニド嬢はそうではなかった模様。恐らく、イーニドはシーモアを好きだったのではなくて、ガールフレンドが出来てしまうことで彼にまで置いてきぼりにされたくなかった、ただそれだけだったんじゃないかと思う。
最後は思いの外シビアな結末が用意されており、思わずドキッとするようなラストシーンが非常に印象深かった。

因みにこの映画、吹替えがものすごく優秀である。たまたま字幕・吹替えの両方を観たところ、普通は少女の声を大人が吹き替えるととんでもなく不自然になってしまうものなのに、本作ではイーニド・レベッカ共に完璧に自然体でびっくり。それもそのはず、イーニドの声を担当したのは日本の声優界の最高峰、高山みなみ氏(レベッカは浅野まゆみ氏)。しかもアニメの時とはまた違う、ちゃんと現実味のある声音で喋ってくれるのが素晴らしい。特定の役者さんのファンでさえなければ、これは吹替えで観るのもオススメかも。




by canned_cat | 2015-03-30 22:01 | USA映画 | Comments(0)