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『アイアンクラッド』


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2011年 USA・UK・ドイツ
3.8 /5点満点

13世紀の英国で実際に起こった内戦「第一次バロン戦争」における、ロチェスター城を巡る攻防を描いた歴史アクション。
1215年のイングランド王国。悪政の限りを尽くし、国民と諸侯からの信用を失ったジョン王は、国王の権限を制限し民主政治を誓わせる大憲章「マグナ・カルタ」にやむなく署名させられる。しかし彼はこれを不服とし、直ちにローマ教皇に働きかけて大憲章を無効にしてもらった上、権力を奪回すべく悪人揃いの大傭兵団を率いて国中で暴れ回る。そして着々と反対勢力を制圧し、再びロンドンに迫らんと、ロンドンへの交通の要であり鉄壁の城壁を誇るロチェスター城へと駒を進めたジョン王。だがここには、ジョン王に造反するオルバニー卿が、テンプル騎士団の生き残りの勇猛な騎士・マーシャルを始めとする一握りの精鋭を集めて、敢然と立て籠もっていた。彼らはフランスから援軍が到着するまでの間、なんとしてでも城を死守しようと、僅かな兵力でジョン王軍を迎え撃つ。王の軍勢1千に対し、その数、なんと若干20名。イングランド王国の行く末が、たった20人の無謀な戦士たちの戦いに懸かっていた。

マーシャルに、『ROCK YOU!』のジェームズ・ピュアフォイ。
オルバニー卿に、『トロイ』『ファンタスティック Mr.FOX』 『天才マックスの世界』 のブライアン・コックス。
ジョン王に、『私がクマにキレた理由』『幻影師アイゼンハイム』 『終着駅 トルストイ最後の旅』のポール・ジアマッティ。
マークスに、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、ドラマ『The Office』のマッケンジー・クルック。
ベケットに、『タイタンの戦い』のジェイソン・フレミング。
ロチェスター城主コーンヒルに、『英国王のスピーチ』のデレク・ジャコビ。


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時系列的には、『ロビン・フッド』の後日談と言える内容の映画である。主人公のトーマス・マーシャルも、『ロビン・フッド』にも登場した実在の貴族(騎士)ウィリアム・マーシャルにヒントを得て考え出された人物だそうだ。
「獅子心王」と謳われた偉大な兄・リチャード1世の跡を継いでイングランド王国国王となったジョン王は、数々の悪政を布き、フランスとの戦いで領地を大量に失った事でも知られ、後に「失地王」とまで呼ばれた英国きっての不名誉な王であった。彼以降、英国王にジョンという名の王様が一人として存在しないのは、その不名誉な名前を冠するのを避ける風習が続いている為だというのが通説らしい。そんな自らの所業のせいで、ジョン王は有名なマグナ・カルタ――これは現在の英国の憲法の礎ともなっている――に調印する事になったわけだが、本人としては、王位剥奪或いは処刑を免れる為にその場しのぎ的に不承不承サインしたに過ぎず、それを尊守する気などさらさらなかったようだ。いやはや、見事なまでに駄目な王様である。
しかしそれにしても、ローマ教皇に憲章を無効にしてもらったのは実に狡猾な戦略と言えよう。当時のキリスト教圏に於いてはローマ教皇の存在は絶対であり、その影響力を考えると、教皇を味方につけたジョン王に敵対するイングランド王国諸侯は、ぐっと弱味を握られた形になる。このジョン王、ただの駄目王かと思いきや、自らの保身にかけては意外に(案の定ともいう)悪知恵の働く人物だったとみえる。

それでも、多くのイングランド王国諸侯は徹底抗戦の構えを見せた。彼らは当時のフランス国王フィリップ2世の王子・ルイ王太子に掛け合い、彼を国内に招き入れる方策に出る。ルイ王太子もイングランド王国への野心を持っていた事から、イングランド王国に侵攻、ロンドンを占拠。この侵攻は、ジョン王を嫌っていた大多数の諸侯と国民から歓迎されたという。諸侯はルイ王太子を次期イングランド王国国王と見做し、彼を擁してジョン王に対抗、そして諸侯の協力を得た王太子はイングランド王国の大半の土地を手中に収めた。だからこそジョン王は、当時依然として王位にあったにもかかわらず、ロンドンを「奪還」しなければならなかったのだ。
だがその後、イングランド王の座を目前にしていたルイ王太子及び造反諸侯の陣営に影が差し始める。王太子軍は、イングランド王国の要塞の一つであったドーバー城の攻略など、幾つかの戦線で失敗、大きな損害を被り、ロンドンへ引き返して城に引き籠もってしまう。これを好機と見たジョン王が、勢いづいて進撃を開始。早速ロチェスター城に大軍で以て押し寄せるが、ロンドンのルイ王太子はロチェスターに援軍を送らず、ロチェスター城の造反軍は遥かフランスからの援軍をひたすら待ちながら、少数の軍勢でジョン王軍による包囲戦を持ち堪えさせられる羽目になる。


と、ここまでがこの映画に必要な予備知識。(必ずしも正確ではないかも知れないが、当ブログは歴史ブログではないので、ある程度はご容赦願いたい。)
本作は、史上稀に見る過酷な籠城戦を、ただただ地道に、質実に、そして言い様によっては地味に描いた史劇だ。物語にもキャストにも演出にも華やかさは全くないので、歴史好きさんか役者さんのファンの方以外にはお勧め出来ない映画である。が、時代に迎合したようなエンターテイメント性や、俗に言うコスプレものとしてのファンタジー性を一切加えずに、妥協のない歴史映画を作った制作側の姿勢を私は評価したいと思う。
つまり「歴史”スペクタクル”映画」としての派手さは皆無なわけだけれど、包囲戦・白兵戦・兵糧攻めなど全ての戦闘描写が非常に詳細、且つリアルで、その点での見応えは充分にある。地味め(失礼ながら)な役者さん達が地道に戦闘を展開するからこそ、実際の戦を思わせるような現実的な臨場感が出るのだ。ただし殺戮や拷問に関するゴア描写も多い為、その意味では十二分に派手と言えるかもしれない。特にジョン王が行った残虐行為のシーンには目を背けずにいられなかったが、あれも史実だというのだから、猶更困った話である。

さて、1000人対20人、という触れ込みではあれど、20人とは元々ロチェスター城に居た衛兵を含めた数……ことによったら城主(老人)やその家族(女性)まで含めているかも知れない数であって、実際にオルバニー卿がこの戦いのために各地から集めてきた精鋭は、彼を入れて7人。この7人という数は、ネット情報に拠れば、黒澤明監督のファンである本作の監督が『七人の侍』にあやかって用いた数字だとの事だ。彼らはオルバニー卿の旧い仲間から行きずりのアウトローまで、年齢も出自も様々。それが卿の呼び掛けに二つ返事でロチェスター城に終結、城主を無理矢理説得して籠城し、決死の戦いに臨む。一つ言えそうなのは、彼らは正義の軍隊ではなく謂わば浪人集団であり、彼らが戦う目的も、大義のためというよりは旧友への信義、ないしは己の信じた道に従ったまでであるらしい、という事。その代わり仕事ぶりはプロフェッショナルだ。この辺りも、日本の時代劇に見る「無頼」の発想に近いものがあるような気がする。
主人公のマーシャルは、映画の主役にしては極めて質素で暗い印象だった。もっとも、存在感がないとか、目立たないとかいうのとは少し違う。マーシャルは寡黙な男だが、十字軍の遠征で嫌というほど実践経験を積んだ彼は戦闘に対する覚悟が人一倍強固で、剣を取らせては無双である。人の命を奪う残酷さと虚しさをありったけ背負い込んだ翳のある元テンプル騎士、という役どころもなかなか渋い。ジェームズ・ピュアフォイ自身も、パッと目を引くような華の持ち主ではないものの、歴史映画に登場すると説得力があるタイプだ。
その外の6人も、地味めな割には(くどいようだが)結構ちゃんとキャラが立っている。なかんずくマッケンジー・クルック演じるマークスと、ジェイソン・フレミング演じるベケットが格好良い。マークスは弓の達人っていうのがまた素晴らしいではないか。正直、あの細腕では若干無理のある設定にも思えるけれども、個人的には病的なまでに細い男性がいたく好みであるので、喜んで目をつぶった。出来れば設定だけに頼らず、もっと作中のエピソードの中で彼らのキャラクターが伝わってくると尚良かったのだけど。

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↑今回ちょっとときめかせてもらったマッケンジー・クルック。パイレーツの義眼の人の時には何とも思わなかったのに、よくよく見たらかなり私好みの御仁。

で、大方の予想通り、一番目立っていたのはポール・ジアマッティ扮するジョン王。いやもうポール・ジアマッティ、クズい役をやらせたらこの人の右に出る人ってそうそういないんじゃなかろうか。だって心底憎たらしいんだもの! あの目つきが腹立たしい、丸ナスみたいな顔もふてぶてしい、もじゃもじゃの髭さえ忌々しい! でもムーミンみたいな体型はちょっと可愛らしい……。ここまで完全なヒールに徹してくれれば、悪役としては100点満点だと思う。因みに彼が引き連れている最凶の傭兵団というのがデーン人で、見るからにヴァイキングっぽい恰好をした集団だったのも、北欧好きとしてはちょっとニヤっとするポイント。

以上、どこまでも地味な内容ながら、個人的には「へえ」と思える箇所がそれなりにあり、歴史の勉強にもなった映画であった。
但し、よそのレヴューでも度々言及されている通り、ヒロインの存在だけは到底いただけない。はっきり言って邪魔だ。ヒロインのイザベラは、ロチェスター城の城主と政略結婚させられた哀れな若妻、という設定なのだが、こんな大事な局面で事もあろうにマーシャルに迫り、おまけにその迫り方がすこぶる面倒くさい。これだから女は駄目だって言われるのよ! と、同性からしても腹に据えかねる存在であった。出しゃいいってもんじゃないのだ、綺麗どころは。




by canned_cat | 2015-02-06 22:38 | UK・USA・ドイツ映画 | Comments(0)