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『ルートヴィヒ』



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2012年 ドイツ
3.8 /5点満点

主演はザビン・タンブレア。
ルッツ首相に『コッホ先生と僕らの革命』のユストゥス・フォン・ドホナーニ。

19世紀のドイツ連邦はバイエルン王国に、のちに「狂王」と呼ばれることになる王がいた。その名はルートヴィヒ2世。
ヨーロッパいちの美貌と謳われ、何よりも芸術を愛し美と平和を好んだ彼は、父・マクシミリアン2世の急死に伴い18歳で王位を継ぐも、政治はそっちのけで芸術の振興に力を注ぐ。そして敬愛してやまない作曲家ワーグナーを宮廷に招聘し、彼を唯一の友として蜜月を過ごすようになる。
しかし既に反逆者として表舞台から追放されていたワーグナーを招じ入れた事により、彼は臣下の反感を買い、更には浪費家のワーグナーの借金を肩代わりした上に彼の言うがままに芸術に費用を投じたため、国の財政は逼迫してしまう。
それでも理想を追い求めようとするルートヴィヒだったが、折しもドイツ連邦はドイツ統一に向けての動きが活発化し、戦乱の世へと突入。この耽美主義の夢見る国王は、かつてない苦悩を強いられることになる。


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ワーグナー生誕200周年を記念して制作した映画、という触れ込みを聞いていたので、国王とワーグナーの愛憎劇なのかなと予想していたところ、(そういう側面もなくはないけれども)タイトル通りの、ルートヴィヒ2世の半生を描いた大河作品だった。

私はルートヴィヒ2世についてほとんど知らなかったのだけれど、実際の写真を検索してみたら、これがまぁ本当に美男子。こんな容貌をしていたら(しかも王族で)、そりゃ並みの生き方は出来ないかもしれないなと思う。どうやら彼は美青年好きだったりもしたらしく、本作ではワーグナーと同じくらい、男性との恋のストーリーにも時間が割かれている。
また、彼はルイ14世のことも崇拝し、中世ヨーロッパの芸術を広く愛好していたといい、結果としてノイシュヴァンシュタイン城やヘレンキームゼー城など、豪奢でロマンチックで非実用的なお城を幾つも建造した。今となっては有り難いことに、これらは名だたる観光スポットとして世界中の観光客を喜ばせてくれている。

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有名なノイシュヴァンシュタイン城(舌を噛みました)。
こうした産物のお蔭で、ルートヴィヒ2世は一部では「メルヘン王」とも称されたらしい。


恐らく、彼は生まれる時代を間違えたのだ。時には王侯貴族に芸術至上主義のロマンチストが居たって良いと私は思うが、間違ってもこんな乱世に生まれるべきではなかった。或いはせめて、長男に生まれなければ良かったのだ。なにせ近隣諸国との緊張関係が激化し、尚且つ科学技術の進歩によって戦争の規模も拡大する中にあって、彼は「ワーグナーの音楽さえ聞けば、みんな平和な気持ちになってくれるよ!」なんて事を平然と宣まう王様である。いっそ生まれる星を間違えてしまったのかもしれない。
しかしながら、とことんおバカな王様なのかというと、案外そうでもない。要は彼は極端にナイーヴな性格をしていたんだろう。ひどく感じやすくて、ガラス細工のハートの持ち主だったために、政治には一切不向きだったというだけだ。
そんなルートヴィヒも、中盤では断固反戦を訴えたり、戦争の犠牲に激しく心を痛めたり、そこから奮起して政治的努力を重ねてみたりと、彼なりの涙ぐましい奮闘を見せる。実際、現代であれば「戦争はよくない」と君主が胸を張って言って良いわけだけれど、当時はまだそういう時代ではなかった。どこの国も自国の領土拡大に必死で、やるかやられるかの世界だったのである。平和を愛するルートヴィヒにとって、どうやってもそれが叶わない時代というのは、どんなにか辛い時世だったろうと推察する。

さて、そんなルードウィヒ2世を演じたのは、ドイツの新進気鋭俳優ザビン・タンブレア。

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どうやらドイツの映画界は、物凄い大型新人を発掘してしまったようだ。モデルのような長身痩躯、画面映えする上品な立ち姿、印象に残る顔立ち、毒のある色気。そのどれもを備えたタンブレア氏は、映画界に是非必要な人材と言えるだろう。私など、あまりに透明で儚げなその雰囲気に、この人今にも夭逝してしまうんじゃないかと観ていてはらはらしたものだ(なんじゃそりゃ)。
なおWikipediaに拠ると、彼はオーディションで「『身長190センチ以上』『30歳未満』『フランス語を話せる』『乗馬が得意』という条件をクリアし370名の候補者から抜擢され」たのだとか。……えっ、ドイツには身長190センチ以上で30歳未満でフランス語を話せて乗馬が得意な人が370人もいるの?(笑)
それはともかく、彼は幼少時代より長年音楽を学んできた人物だそうで、いっそのこと音楽家を名乗っても良さそうな経歴の持ち主でもある。まさにルートヴィヒ役に打って付けだったというわけか。演技力も申し分なく、繊細なルートヴィヒ2世の人柄をよく把握して演じていた。これはザビン・タンブレアの今後の活躍を括目して待たねばなるまい。個人的には、美しい男性像だけでなく、出来れば幅広い役柄を演じる姿を見てみたい。

映画本編に話を戻そう。
人一人の半生をたかだか2時間の映画で描出するのは普通は困難というもので、伝記映画の御多分に漏れず、本作もある程度大味な仕上がりになってしまっていた。この映画の場合、一個人の半生のみならず時代の情勢や歴史的背景も盛り込む必要があったせいで、余計に難しくなったのだろう。それにしても後半の展開はあまりにも駆け足すぎたと思う。
よって本作の主な見どころは、ザビン・タンブレアの存在感と、その他の実力ある俳優陣、それから製作費20億円という噂の絢爛豪華な美術といったところか。とはいえ歴史のお勉強にもなるし、観て損な映画では決してない。




by canned_cat | 2014-11-03 21:49 | ドイツ映画 | Comments(0)