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『カルテット! 人生のオペラハウス』


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2012年 UK
4.4 /5点満点

英国の風光明媚な土地に佇む、第一線を退いたプロの音楽家達のための瀟洒な老人ホーム、「ビーチャム・ハウス」。だが深刻な資金不足により、このホームは存続の危機に直面していた。そこで、危機回避のため住人総出での盛大なチャリティーコンサートを開こうと、ホームに暮らす往年の名音楽家達は準備に奔走する。かつて共にカルテットを組んで活躍していたレジー、シシー、ウィルフの3人もまた練習に余念がなかったが、しかしそんな彼らのもとに、過去に確執を残して去っていったカルテットの残りの一人であるプリマドンナのジーンが現れ、ビーチャム・ハウスに入居する。大事なコンサートを控えていた3人は、疎遠だった彼女との再会に当惑するのだったが……。

監督は、『クレイマー・クレイマー』『ビリー・バスゲイト』の俳優ダスティン・ホフマン。
ジーンに、ドラマ『ダウントン・アビー』、『ラヴェンダーの咲く庭で』『眺めのいい部屋』『ジェイン・オースティン 秘められた恋』『ムッソリーニとお茶を』 『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』 『ミス・ブロディの青春』のマギー・スミス。
レジーに、トム・コートネイ。
ウィルフに『スティル・クレイジー』のビリー・コノリー。
シシーに、ポーリン・コリンズ。
セドリックに、『グッド・シェパード』『英国王のスピーチ』『プリンス ~英国王室 もうひとつの秘密~』 『ファンタスティック Mr.FOX』のマイケル・ガンボン。


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なんとも上品な映画だった。まず、紫を基調としたポスターやジャケットがとても佳い。エレガントで、円熟味のある本作の味わいがよく顕れている。
建物も、風景も、音楽も美しく、登場するのはロマンスグレーな紳士淑女の英国俳優さんばかりという、究極の憧れが詰まったようなこの作品。なおビーチャム・ハウスのその他の入居者を演じているのは本物の一流の音楽家達なのだそうで、なるほど、皆さん演奏に隙が無いばかりか、品格も風格もおありになるわけである。
私の大好きなマギー・スミスは、もちろんこうした映画にはぴったり。役どころは彼女の十八番と言っても良いだろう、気位の高い頑固おばあちゃん役だ。ジーンはビーチャム・ハウスの住人の中でも別格扱いの大物歌手なのだが、若い頃は野心とエゴの塊で、カルテットを引っ掻き回すだけ引っ掻き回して去って行った女性。しかし今ではその歌唱力もすっかり衰え、ただ過去の栄光にすがるだけの淋しいプリマドンナである。
そして、そんなジーンと最もワケアリの関係にあった人物、レジー。なんと彼らは、その昔「9時間だけ」結婚していたのだとか(笑)。レジーは温厚で誠実な紳士だけれど、流石にジーンとの間にあるしこりは大きく、静かで優雅だった筈の彼の余生は彼女の出現によってすっかりかき乱されてしまう。とはいえ長年ジーンを忘れられずにいたのも確かで、今でも彼女を見つめるレジーの眼差しは、特別な温度を帯びている。それはもちろん、ジーンも同じ。レジーやカルテットとの決別には、彼女の側にもそれなりに事情があり、そして彼女なりに傷ついていたのだ。年を取ったからといって――長い年月を隔ててしまったからこそかもしれないが、やはり簡単には仲直りとはいかない。けれども最後には大きな心でジーンを赦し、自ら優しく手を差し伸べてあげるレジー。嗚呼、これぞ英国紳士の鑑だ。
それにしても、このレジー役のトム・コートネイさんがまた、格別に品が良い。知的なお顔立ちに、落ち着いた物腰、スマートな着こなしや、一種の尊さすら感じさせる老眼鏡姿……なんて素敵なのだろう。もしもオノ・ナツメ氏の老紳士漫画『リストランテ・パラディーゾ』を実写映画化する機会があったら、その中の一人は是非この方にやっていただきたい。イタリア人じゃないけど(笑)。

全体的には、率直に言うと粗筋から想像される通りのお話でしかなかった。名声のある音楽家たちが、終の棲家でもって過去にわだかまりを抱えた仲間との絆を取り戻し、ささやかながらも掛け替えのない老人ホームのステージに、4人で臨むというもの。それ以上でも、以下でもない。それでも非常に感じの良い作品だったし、どのキャラクタにも愛嬌があって、気持ちよく鑑賞できた。ホームの経営難とか老いの辛さとか音楽の技術の衰えとか、色々問題はあるにしても、正直こんなリッチなホームでこんな豊かな老後を送れたら、どんなに素晴らしいだろうと思う。そういう意味では、とても夢のある作品と言えるかもしれない。
肝心のカルテットの歌声は結局聞けず仕舞いで終わってしまうのが残念といえば残念だけれど、ま、流石にそこまで望むのは贅沢というものかな。

ところで、邦題のサブタイトルは「人生のオペラハウス」となっている。この手の文句はかなりありがちで、一見そんなに変には聞こえない(少なくとも耳障りは良い)のだが、でもよく考えると凄く変。なんだろ、人生のオペラハウスって(笑)。




by canned_cat | 2014-05-19 23:49 | UK映画 | Comments(0)