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『プリンス ~英国王室 もうひとつの秘密~』


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2003年 UK
4.6 /5点満点

ジョン王子(成長後)に、マシュー・ジェイムズ・トーマス。
ジョージ5世に、『プライドと偏見』『路上のソリスト』『ワルキューレ』のトム・ホランダー。
ジョージ5世の父エドワード7世に、『グッド・シェパード』『ファンタスティック Mr.FOX』のマイケル・ガンボン。
娘時代のメアリー妃に、ビル・ナイの娘であるメアリー・ナイ。


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別題『ロスト・プリンス ~悲劇の英国プリンス物語~』。BBC制作の前後編から成るTV映画で、日本でいう二夜連続のスペシャルドラマのようなものだろうか。
英国王ジョージ5世の末子であり、俗に言う「王冠を賭けた恋」で知られるエドワード8世や、『英国王のスピーチ』に於ける英国王ことジョージ6世らの末の弟である、ジョン王子の物語だ。
このジョン王子は、自閉症・知的障害・度重なるてんかん発作を抱えていた事から、世間の目に触れられぬように一家から隔離されて暮らし、13歳で夭逝した人物らしい。何しろ昔の事であるから、その是非はともかく、彼の存在は王室のタブーに近かったのではないかと推察される。しかしWikipediaによれば、彼は「イギリス王室の悲劇的存在として近年注目され」ているそうだ。
ジョージ5世とメアリー妃の間に生まれた6人の子女のうち、一人は禁断の恋の果てに王位を捨て、一人は吃音に長年悩まされ、一人は自閉症で隔離された末に幼くして亡くなったことになる。無論、不倫と吃音と自閉症を一括りにしてはいけないし、そのどれに対しても「問題(=トラブル)」などという軽率な単語を当て嵌めてもいけない。が、それにしてもこの一家には、家族の在り方を問われるような課題が随分多くあったのだなぁと、改めて感じる次第だ。

さて、何故か本作のポスターやDVDジャケットの類いには幼い頃のジョン王子のスチールが使われているけれど、実際には12歳前後に成長したジョン王子が物語の主役。そのジョン王子と、彼を献身的に育てた乳母・ララを中心に、彼らと王室一家の関係性などが描かれている。
個人的には、ジョン王子の物語と並行して、当時の王室を取り巻く時代の流れもしっかり描かれていたところが素晴らしかったと思う。ジョン王子が過ごした(あまりに若すぎる)晩年は、第一次世界大戦前後の時代。この未曾有の激動の時代に、ロイヤルファミリーであるところの一家がどんな立場にあり、そしてどんな不安に包まれていたのかが、細やかに想像できる作りになっているのだ。当然、そうした厳しい世界情勢は王家が抱えていた様々な問題にも大いに影響を与えてゆく。その辺りの事情を描く事によって、本作はジョン王子に同情を寄せるだけの単純なストーリーにならず、もっと広い視野を獲得する事に成功していたと思う。
私自身は、当時の英国の歴史や王室の人々の人となりといった背景にとても暗かったため、ネットで色々調べてみたのだが、知れば知るほど一層この作品は面白味を増していった。例えばジョン王子の父親ジョージ5世は、本作では一見小心者のように描かれていたけれども、彼は兄が急逝したために20代半ばになって急遽王位継承が決定し、兄の婚約者だった女性を妻に迎えたという経緯を持っていたらしい。そう考えれば、ジョージ5世が仮に余裕に欠ける人物であったとしても、ある程度無理もないなという気がする。その上、彼は両親が徹底的に不仲だったそうだから、その事も彼の中の家族観に良くないイメージを植え付けてしまったのかもしれない。
なお全くの余談であるが、「ウィンザー家」という現ロイヤルファミリーの家名がこの時代に付けられたものであり、それに際した逸話もこの映画で初めて知って、大変興味深かった。

いい加減感想に入ろう。本作に於けるジョン王子はまるで天使そのもので、その邪気の無い姿には心が洗われるようだった。不遇な環境にあったとはいえ、とことん愛情深いララや、仲良しのジョージー王子の存在も大きな救いだ。
一方、両親であるジョージ5世とメアリー妃のジョン王子に対する扱いは、やはり少々冷たいと言わざるを得ない。しかしながら、良い親であろうとなかろうと、二人がジョン王子の親である事に変わりがなかったのも確かだ。関係は良好とは言えなくとも、最後まで、二人にとってジョン王子は「我が子」以外の何者でもありはしなかった。そういう理屈抜きの「情」が、彼らの表情から見てとる事ができた事は、本当に良かったと思う。土台、「王族」という超特殊な家庭に生まれた彼らは、一般庶民とは子育ての概念が全く異なるのだろうし、或いは超特殊な環境にあるが故に、子育ての仕方がよくわからずにいたのかも知れない。何しろ6人の子供は全員、ほとんど乳母が育てたのだから。そのせいか、夫妻のどちらも、ジョン王子が嫌いなのでもなければ鬱陶しいのでもなくて、ひだすら戸惑っていただけのようにも見えた。
いずれにせよ、この作品はキャラクターづくりがしっかりしているお蔭で、どの登場人物の視点で見ても、奥行を感じられる物語になっている。派手さはないが、真面目で誠実な感じのする、良い内容だった。




by canned_cat | 2014-04-21 22:23 | UK映画 | Comments(0)