人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『ナイロビの蜂』


『ナイロビの蜂』_f0324790_00385977.jpg

2005年 UK
4.2 /5点満点

『裏切りのサーカス』と同じ、ジョン・ル・カレの小説を映画化した作品。
温和で庭いじりが趣味のUK外務省一等書記官・ジャスティンは、妻のテッサと共にケニアのナイロビに赴任していた。テッサは現地の人々の支援活動に熱心な日々を送るが、ジャスティンは彼女の行動には関わらず、遠くから見守るだけだった。然しある日、テッサは活動中に何者かに暗殺されてしまう。事故死で片づけようとする当局に対し、疑惑を抱いたジャスティンは密かに事件を探り、やがて彼女が証拠を掴んでいた国際的な陰謀に辿り着く。それはUK外務省と欧州系大手製薬会社との癒着、及びナイロビに於ける不正な新薬の人体実験だった。

ジャスティンに、レイフ・ファインズ。
妻のテッサに、『ブラザーズ・ブルーム』のレイチェル・ワイズ。


『ナイロビの蜂』_f0324790_11304548.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11305898.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11311670.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11313636.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11314903.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11315974.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11380608.jpg


『ナイロビの蜂』_f0324790_11365384.jpg



制作陣は違えど、『裏切りのサーカス』と同様に重厚な作りのサスペンス。冒頭でまず事件が起き、そこから回想を織り交ぜて順々に物語を追っていく手法も変わらず。よって「これから何が起きるのだ」ではなく「一体何が起きていたのだ」と、観客の探求心を巧みにくすぐり、ぐいぐいと引き込んでゆく。そしてこれまた”サーカス”と同じく、自分以外誰一人として信用出来ないような四面楚歌状態でお届けされる、緊迫の展開。
ただ決定的に違うのは、最後には主人公が無事不正を暴いてめでたしめでたし、ではなかった点。本作に用意されていたのは、大きな痛みを伴う切ない結末でした。

ネットでこの映画のレヴューを見ると、ジャスティンの基本人物像に関しては”事なかれ主義のぼんくらガーデナー”といった見方が主流のようですが、個人的な意見としては、彼は事なかれ主義というよりはあまりに性格が温和すぎたために、超情熱家の奥さんの行動には介入しようにもできなかったのではないかと思いました。放っといたのではなく見守っていたという感じだったし、時には疑問を感じても、すぐに騒ぎ立てずに内心で秘かにやきもきしていたという印象。そういう慎ましさは、大人しい人の美徳でもあるのですよね。それにテッサは絶対、止めたって言うこと聞かないし。
そのテッサにしても、不正を決して許すまいとする彼女の信念は立派だけれど、然し政治は信じていないのに正義は信じちゃっているところが問題。正義が果たされないからこそ悪徳政治なんです。それを正攻法で為政者に不正を突き付けても、あっさり解決する筈がありません。最終的に大きな目的を成し遂げる為には、時には途中で小狡い手段を使う事も必要だということを、彼女は学ぶべきだったでしょう。
二人はあまりにも性格が違い、物事に対するスタンスが対照的だったために、すれ違った生活のまま悲劇を迎える事になってしまう……何も知らないままテッサを失ってしまったジャスティンの悲しみと後悔は如何許りだったか、それは察するに余りあるというものです。
でも、テッサがジャスティンに何も話さなかった気持ちは、とてもよく解る気がします。作中でも”夫を危険から守りたかった”と説明していましたが、それ以外にも、多分テッサにはジャスティンの安らかさが心の拠り所だったのではないでしょうか。常に安らかで、頭のてっぺんから足の爪先まで誠実なジャスティン。その貴重な心の拠り所を、厳しい現実と対峙する毎日の中で、彼女はそっと聖域のように守っておきたかったのだろうと。
表面的にはすれ違いの生活を送っていても、心の奥底では通い合っていたジャスティンとテッサ。そんな妻の幻影に絶えず語りかけるジャスティンの声が、今も切なく耳に残ります。




by canned_cat | 2014-04-14 22:38 | UK映画 | Comments(0)